新書849新版ハリウッド100年史講義 (平凡社新書)

映画誕生は，諸説あるが1895年のリュミエール兄弟によるものとされている。それに遅れることやや数年してハリウッドは誕生したから、本書旧版時点で100年、増補版時点でで120年弱と言うことになる。著者の立場は、映画は作る人，映す人，見る人の立場を総合して記述すると言うもので，至極真っ当に思えるのだが、巻末の文献紹介に見られるように本家アメリカではどうも違うようだ。マルクス主義的文化構造論一点張りだったり（いわゆる上部構造）、記号論プラス精神分析などで、仄聞するようにアメリカの大学の文科系の学問はまさに象牙の塔なのだろう。さて、本書では時代のアイコンとなった作品群は勿論紹介されるが、映画会社の興亡（テレビや写真に対してどう対抗して来たか、産業としての形態の変化なども含む）、撮影を巡る技術の変遷、映画文法の発展、映画を巡る社会との関わり（ヘイズ・コードからレイティングシステムへ）などの幅広い言及を含む。それらの変遷がそれぞれの作品にどう影響したかが論ぜられる。勿論更に広いアメリカ社会の情勢も反映されるのは当然だ（冷戦やベトナム戦争）。増補分では、現代映画を含む環境について、Youtubeなど見れば分かるようにデジタル化の推進によって動画が大衆により簡単に作れてしまう時代であるとの認識が強調されている。ただ，長編映画を作れる意欲や能力のある人はかなり少ないはずだ，と評者は思った。一方では、俳優などを考えても最近の映画では素人あるいはそれに近い人の起用が話題になったりするので、プロと素人の垣根は全般的には低くなっているのかもしれない（ただし映画における素人俳優の起用はブレッソンを思い起こせば分かるように長い歴史があることにも注意すべきだろう）。いずれにせよ、次の10年も画期的な時代の変化が映画製作にも及び新しい流れが出てくるのは確実で，新たな映画がどんなものであるかが、これからの楽しみだ。何しろ映画自体が誕生から120年と少ししか経っていないのだから，そのうちの10年は大きいはずだ。